【ミクリ視点】悪い魔法とプリンス

相互のUMIさんが
メロメロ食らったミクリさんが「アザレア♡♡♡」ってめっちゃくっついてくるんだけど、いつもベタベタしてくるから全く気が付いて貰えないミクアザ
とネタを呟いていらっしゃり、そちらから勝手に派生させた話です


「ミクリ! 助けて!!」
 騒々しい友人に何かと気怠く視線を向ければ、そこには、私の妻に抱きつかれた御曹司の姿があった。
 一瞬、フリーズしてから少しずつ状況を飲み込む。
 うん、とりあえずダイゴから離れて欲しい。
 妻は今日、自分が開発した製品の製作を依頼しにデボンへ行っていた。そのデボンの研究室でダイゴと話し込んでいたところ、誤ってポケモンのわざ“メロメロ”の成分が含まれた液体をかけられてしまい、一番最初に目に入ったダイゴに対して“メロメロ”じょうたいになってしまったらしい。
 そう話している間も、ダイゴに抱きついて離れない妻に、私は頭を抱えていた。
 何度か離れるようにと引っ張ったのだが「どうして??」と涙を流しながら嫌がられてしまえば、私は弱ってどうすることも出来なかった。
「なんでそんな媚薬紛いの物を作っていたのかな? デボンは」
「いやいや、これは歴とした研究だよ。人を助けるためのね」
 彼は、社へのイメージや、それに従う研究者たちの正当性を主張するため、大まかな概要を説明してくれたが、私にとってはどうでも良いことだ。問題は、どうすればその“メロメロ”が無くなるのかということである。
「解毒剤はないのかい?」
「あったら飲ませているよ〜!」
「ダメ御曹司め」
「ちょ、ちょっと! あのね、解毒剤は確かに無いんだけど、うちの研究者たちによれば、今日中には治るって」
「はあ?」
 今日一日我慢しろ、というのだろうか。
 無理だ、それは無理だ、とすぐに答えた。
 デボンでも色々と手を尽くしたらしいがどうにも出来ず、仕方が無いので彼女のボーマンダに乗って二人でルネまで帰ってきたのだという。
「アザレア、君の夫は私だよね?」
「違います、ダイゴさんです」
「そんなわけないだろう?」
 こめかみに青筋を浮かべながらそう言えば、彼女は「違うもん」と言って頬を膨らませてそっぽを向いた。その動作は可愛いらしいけれど、可愛いとか思っている場合ではない。
「ラムのみは試した?」
「いや、試してない!」
 それを聞くと、私は早足で庭から収穫したラムのみを掴み、ハチミツも加えてミキサーに入れた。ジュースにしてからグラスに注ぎ、アザレアの所まで持っていく。
「これも飲んでみるんだ、アザレア」
「や」
 そう言って首を横に振られた。“メロメロ”の効果なのか、理性が飛んでおり、言動や思考が幼くなっている。
「アザレアちゃん、ボクからもお願いだ。これを飲んでみて」
「……さっきから、ずっとそう」
「えっ?」
「ダイゴさん、私のこと嫌いなんだ」
「違うよ!? でもね、君は今正常な判断能力を持っていないんだ。さっきも説明しただろう?」
「嘘だ、ほんとは私のこと嫌いなんだ」
 そう言うと、アザレアはぐずぐずと泣き始めてしまったので、私はグラスを持ったまま笑うしかなかった。ダイゴは「違うよ、違うよ」と言いながらアザレアを慰めていたのだが、それすらもかんに障った。
「アザレア」
 呼びかけてこちらに向いた彼女をひっ捕まえると、私はそのまま彼女をソファーの上に組み敷いた。そばに置いたグラスからジュースを口に含み、無理やり彼女に口移しで飲ませた。
 彼女を離さずにそのまま口づけを続けていると背中に手を回された。優しく抱きしめられたので、一度離した。これは私たちの間では通じる意味合いで「逃げないので一度離してくれ」である。
「ミクリ? どうしました?」
「どうしましたはこっちの台詞だ。君の夫は私だよね?」
「当たり前じゃないですか」
 そう笑う彼女に優しくキスを落としてから、ダイゴに横目で「帰れ」と合図を送った。彼は首がもげるかと思うほど勢いよく頷くと、荷物をひっつかんで出ていった。
「あれ? 私はデボンにいましたよね?」
 どうも“メロメロ”だった間の記憶は飛んでしまったらしい。その方が彼女の名誉のためにも良いだろう。
「そうそう、でも疲れて帰ってきたんだよ。忘れたの?」
「あれ? 私もしかして疲れて寝ていたんですか? そして、ミクリが迎えに来てくれた?」
「そうだよ。思い出した?」
「いえ、論理的に考えてそうかと思っただけで……先ほどまでどなたかいらっしゃいましたか? 扉が閉まる音がしましたが」
「ポケモンたちじゃない?」
「そうでしたか」
 彼女は私の言葉にしずかに頷いて納得したようだ。
「……愛おしい夫に何か言うことがあるんじゃないかな?」
「あっ、迎えに来て下さってありがとうございます」
「他には?」
「気が付いたら私を組み敷いてキスしている夫に?」
「そう」
 
「……貴方を誰よりも愛しています」
 少し恥ずかしそうに笑う彼女を優しく撫でた。


「ラムのみが効果的だったとは思いつかなかったよ。ポケモンのわざは試していたんだけど」
 研究に関してはより危機管理を徹底させた上で続けることになったそうだ。私は即刻取りやめさせたいところだったが、「アザレアだったらどう言うだろう」と考えたときに、彼女は研究の続投を願うだろうと、我が家のラムのみを提供して終わった。
「お前の目は節穴だな」
「えっ? というと?」
 他にも何かしたの、とダイゴが真剣な顔で聞いてきたので、私も真面目な顔をして答えた。
「悪い魔法を解いたのは“真実の愛”だよ」
 そう言うと、ダイゴがこれでもかと苦笑してきたが、そもそも全部お前のせいだ。

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