【ミクリ視点】厄介な明晰夢SS
時系列はちょうどジムチャレンジしてる頃です
「ミクリさん、キス……してください」
「えっ、と……どうしたんだい、アザレア。何かあったのかな?」
「貴方が好きなんです。だから、その……キスしたくて」
格好悪いが、息をのんだ。喉仏を大きく上下させて、一度深呼吸をした。落ち着こう、落ち着け、落ち着きたい。
夢に描いたような、自分好みのシチュエーション。
そこでハッと気がついた、夢、夢かあ。
そうか、これは夢だ。明晰夢という「夢だと気がついている夢」である。
「アザレア」
「はい」
「気持ちは嬉しいんだけど……その、君の本当の心が私は欲しいんだ」
だから夢だけで満たされても仕方が無い。私が本当に欲しいと思っているのは、本物の彼女の心だから。
「……信じて、貰えないんですか? 私の気持ち」
彼女がそう切なげに呟いては目を伏せるので、私は気道がしまった。吐き出す息が重く感じられた。
「……そうだね、だって」
それは本当の君じゃないから。というのはなんとなくわかった。
それに何より、夢の中だからと好き勝手やる自分がいれば、私は軽蔑するだろう。それは私が在りたい姿ではない。それに夢の中でしか彼女の視線を一人占め出来ないなんて、情けないと思う。
次にまぶたを開けた時、目に映ったのは見慣れた天井である。ああ、ちゃんと夢が覚めたらしい。朝の日差しが柔らかく差し込んでおり、時計を見ればもう起きる時間だった。
「さてさて、どうしてあんな夢を見たのかな」
頭をかきながら上体を起こせば、足元に暖かさを感じた。掛け布団をめくってみれば、そこには泣きながら眠っているアザレアの姿がある。
「ゾロアーク、寝室に勝手に入ってきたらダメだろう」
そう言って起こすと、アザレアの姿をしたゾロアークは大きなあくびをした。
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