【FGO】貴方を護る

ジクぐだ♀小説です!
地雷は踏んで生還してね!


「おやまあ、またですか」
 そんなことを言いながら、どこからかすっと現れたキャスターの玉藻の前は当たり前のように毛布を少女ーー俺の膝の上に座り、向かい合わせの態勢で寝てしまったマスター ーーに掛けた。
「……すまない」
「いえいえ、お気になさらず」
「……今度からは、俺が気をつけて持ち歩くようにしよう」
「いやそれ、邪魔じゃありません?」
「しかし……」
 俺が申し訳なさから言い淀むと、玉藻は大げさにため息をついた。
「私だって、何かに理由付けてマスターの顔を見たくなるときがあるんですよ」
「……! 察しの悪い男で、本当にすまない」
「ですから、最初からそう言っていますでしょう?」
 そこまで言うと彼女はマスターの頭を愛おしそうに優しい手つきでひとなでして、おやすみなさいと就寝の挨拶をして去って行った。
 彼女が絶対的な必要性のない就寝をするかは知らないが、あのことばは人間であるマスターに当てられた優しいものだった。
 彼女が去って、部屋はまた静まり返る。カルデアにいるサーヴァントたちは数が多いから、ある意味太陽の沈まぬ国なのだが、皆マスターに気を遣っているからかどんちゃん騒ぎをする者は少ないし、したところで防音設備が整っているため音は遮断される。
 ゆえに静寂なので、だからこそマスターの細い寝息すら水鏡の波紋のように広がって、耳に残る。
 人類最後のマスターは、膨大な数のサーヴァントたちと縁を結び、協力関係にあり、そしてそれらを指揮する立場にある。
 新参者たちには分からないことではあるが、初期からカルデアにいる俺のようなサーヴァントたちは、マスターが普通の少女であると知っている。
 それでも、マスターは立場上弱音を吐かないし、泣き言も言わない。辛くても怖くても脚が震えてもまっすぐ前を向いて手を伸ばす、そんな女性(ひと)だ。
 とはいえ繰り返すが、マスターとて悩むし落ち込みもする普通の少女であることに違いは無い。
 そのため、カルデアの最古参メンバーのひとりである俺を呼び、俺を見つけるとそのまま顔を伏せて抱きつき、黙り込んでしまう。
「あのね、ジークフリート、こんなことがあって……」
 そんな風に自ら話をしてくれるときもあるが、大抵マスターは俺に抱きついたまま黙りこんでいる。俺を含む誰に話しかけられても応えず、ひたすら顔を隠している。
 だから俺もなにも言わずに、マスターの頭を撫でて、彼女が落ち着くまで、彼女が自ずから離れようとするまで傍にいる。
 声を殺して泣いた日や、今日のようにかなり魔力、体力、精神力といったものを消耗した日はそのまま疲れて眠りこんでしまうため、俺もその場から動かずにマスターの寝台として役割を果たす。
 そうして主従であるとはいえ男女が一晩を共に過ごしてしまうことを知ったメンバーに嫉妬や心配好奇の目と様々な視線を投げかけられるが、マスターのことを第一に考えるのであれば今の行動が最善であると考えているのは皆も同じらしく、マスターを敬愛するサーヴァントたちから袋叩きにされずに見逃されている、ようだ。
 しかし、マスターが着の身着のままで寝てしまう上に俺も身動きがとれないため、マスターが風邪を引きかねない。そこで、たまにこの様子を見留めた玉藻の世話になっているというわけだ。
 胸元にもう一度視線を落とすが、やはりマスターの顔は見えない。彼女の細い肩と体躯をみて、はあ、と大きく息を吐いてから、そっと腕を回し、彼女の頭を撫でた。
 マスターは、嗚咽をもらすように肩を震わせていても「もう大丈夫!」と顔を上げるときには、どんなに直前までーー泣いていても、目元は腫れていないし、声を悪くした様子も見せない。
 どうしたら、こんなーーこの時代のこの国では成人を迎えていないらしいーー少女が、そんな泣き方を覚えてしまうのだろうか。
 それがなんとも、心にぴんと鯨の髭で線を張られたようでつらかった。強固な弦を弾けば美しい音が鳴るだろう。だがその弦はいつまで張り続ければよいのだろうか?
 彼女は楽器ではなく人間なのだと、……たったひとりの少女なのだと、いつになればそう笑えるのだろうか。

 押しとどめなくて良いはずの悲しみを、苦しみを、理不尽を、彼女はひとりで押し殺してしまっているのだ。
 しかし、自分に出来ることは、彼女が顔を隠せるように壁であることしかない。彼女の涙を拭う存在にはなれない。それが、マスターとサーヴァントという線引きだと、彼女の行動で思い知らされているようだった。
「マスター……あなたは……」
 彼女の髪を撫で、背中を丸め、また彼女の背に回した腕に力をこめる。不躾だと知りながら、その時は頭に血でも上っていたのだろうか、彼女の頭に触れる程度の口づけを落とした。

「友よ、俺はずっとあなたのそばにいよう。地の果てまで、天の果てまで、あなたとともにあろう」

 ひとりでそう誓う様子は滑稽だったかもしれないが、俺は彼女にそう誓った。
 あなたがいつか、目を赤く腫らして泣ける日がくるように。あなたがいつか、思いを心をせき止めなくて良いように。
 俺はあなたを護る盾であり、あなたを守る剣であろう。


fine.

Atorium

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