【アイチュウ】惚れた弱み

ノアプロ小説です!地雷は踏んでね!
「君ってさ、本当に不器用だよね」
そう、私にため息をあびせたのは、私の恋人であるノアだ。

***

私はエトワール・ヴィオスクールで教師あでり、アイドルの卵であるアイチュウを育てるプロデューサーでもある。彼――ノアは私が育てるべき、アイチュウのひとりである。IBというバンドのリーダーを務め、バンド内ではメインボーカルとギターを担っているという責任ある立場にいる人物だ。彼は持ち前の器量の良さとカリスマ性で見事にやんちゃで個性が豊かな仲間をまとめ上げている。
そんな彼と私は何の因果だか――などというと彼には怒られそうだが――付き合っている。というか、彼の戦略により付き合わざるをえない状況へと、外堀を埋められ、身動きを奪われ、私は彼に恋に落ちてしまったとでも言っておく。とにかく、そういうことだと思っておいて欲しい。
彼による数々の策略により、最初は私も同棲することに反対していたのだが、押し込められ今では彼と同棲している。嫌々、渋々というわけでもないのが、私の弱みであり、彼もそれをよく分かった上で利用している。
「ノアくん、それ、疲れ果てて帰ってきた恋人に言う台詞じゃないわ」
「よく言うね。愛しい彼女のために夜中まで待ったのに、帰ってきた彼女が疲弊しきっていたら、物申したくもなるだろ?」
彼はそう言い終わり、またため息をつくと、とりあえず玄関で寝るのは無しと言い切り、私を抱きかかえてベッドに運んでくれた。

「で? 一応聞いてあげるけど、オレをこんな時間まで放っておいてまで、取りかかっていた仕事って何かな? ほら、遠慮せずに言ってごらん?」
言い方がいちいち怖い。私は仰向けで、彼が腰掛けているベッドの縁へ首を動かす気力が無いほどに疲れているおり、照明が暗いことも重なって彼の表情が読めない。
事の真相を正直に言わなければ怒るだろうが、言っても怒るだろう。彼は案外――いや、まだまだ子供っぽくて、彼も自負している通り、独占欲も強い人物だ。
私はため息をついて話し始めた。
「えっと、ArSが大きな仕事を任せてもらえることになったの。それで、関係者といろいろ……」
「へぇ。なるほど。仕事が大好きで真面目な君らしいね」
「嫌味?」
「いや? 褒めてるよ」
そう言うと彼はごろりと上体を倒し、私と向かい合わせになって寝転がる。
「真面目で、責任感があって、俺たちのために仕事をもぎ取ってくる。プロデューサーの君らしい」

彼はそう言うとそのまま目を閉じた。彼はたくさんのファンを魅了するほど本当に綺麗な顔立ちをしている。瞳を縁取る金糸のような睫毛(まつげ)は細く、陶器のように白い彼の肌とよく合っている。あまりに整ったその顔は、うっとりしてしまうほど周囲を魅了する。触れてしまえば壊れてしまいそうな、人形のような儚さも彼の魅力だ。
「……オレに見惚れてるでしょ?」
「……そうね」
「ははっ! 素直でよろしい」
何をきっかけに上機嫌になったのか知らないが、彼の機嫌は私の帰宅時よりは確実に良くなっている。どうしたのだろうと思ったが、そう考えている間に彼の腕に閉じ込められてしまった。
彼はそのまま私を抱きしめて、頭のつむじのあたりに顔を寄せているらしい。吐息を感じる。どうやら笑っているらしい。
「君さあ、可愛いよね」
「……眠たいの?」
「そこは顔を赤くするところだろ」
私が冷たく返すと、彼はまた微笑んでいるらしい。優しい吐息がかかり、背中を撫でられる。
「ごめんなさい。本当に悪いんだけど、私、本当に今日は……」
「ああ、おやすみ」
眠らせてくれるらしいので、この体勢のまま、この格好ままか! というツッコミは置いておき、私は怠惰ともとれるが、ありがたく眠らせてもらった。

***

「本当に寝たね……? はあ、よっぽど疲れていたのか」
オレはそうため息をついて、彼女の顔を見つめる。
彼女の言葉に偽りはないんだろう。彼女は喫煙者ではないし、オレの知る限り、彼女の周囲に喫煙者はいない。そんな彼女から煙草の匂いがする。間違いなく、オレが知らない煙草を吸う誰かと長時間一緒にいたのだろう。なんだかそれが、むかつく。
そんな具合に嫉妬している自分にはさらにむかつく。目に見えない、知らない相手にだなんて不毛にも程がある。
しかし、仕事をいつも一生懸命に頑張る彼女に惚れたのは自分だから、もうそれは惚れた人間の弱みとして我慢する他ない。
「ふわあぁあ、オレも着替えて寝ようかな。おやすみ」
オレはそのまま彼女に口づけを一つ落として、眠りについた。

Atorium

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