【アイチュウ腐】どうしていいか分からない
ラビ朝です。色々注意して下さい
それがちっとも、思い当たるふしがなくて、どうにも自分が情けなくて。ガラスが床に飛び散るように。雨を道路がはじくように。あふれ出した思いが言葉にならずに、胸に突き刺さり、どくどくと血が流れては、溢れ出す。
どくどく、どくどく。
この音は、この赤は、重ねた君への思いの数で、重ねた君への愛の数だ。そんな馬鹿みたいで、滑稽なことを思い描いては、砂浜を波が撫でるようにかき消していく。
わからないんだ。なんで君が、俺を無視するのか、俺を、君の世界に入れてくれないのか。
わからなくて考えるうちに、あやとりがほつれてからまるみたいに、ぐるぐるぐるぐる、君への想いが募るんだ。
だから、今日こそ聞いてみよう。朝陽、君がなんて言ったって、俺はたぶん、受け入れられるよ。ううん、受け入れたいよ。
貴方を視界に入れること、貴方のそばにいることが、俺はたまらなく、たまらなく怖く感じます。
ああだって、だっておれは、俺は。悪魔に魂を売ってしまった。
きっときっと、いや絶対、俺は気付いてはいけないことに気がついてしまった。
貴方の笑顔が優しさが、あんまりあんまり優しくて。ひとりぼっちの俺のこと、春の優しい陽射しのように、そっと包んでくれたから。辛いことを忘れさせてくれる夜のように、俺に寄り添い歌うから。俺はきっときっと、いや絶対、気がついてはいけない、いけないことに気がついて。
俺はそれに気づいたとき、風と一緒にふわりと笑ってとんでいき、風船みたいにはじけてとんだ。
知ってしまった感情を、知ってしまった恋心を、どうして善(い)いか分からない。
貴方はきっと俺のこと、そんな風には思ってなくて、俺は勝手に貴方のことを、自分の悪魔に売ってしまった。
貴方がいるとうれしくて、狂(おか)しくなるほど好きなのに。貴方が俺以外と話すたび、どうしていいかわからない。
胸が痛んで、苦しくて、貴方を捕らえてしまいたくなる。それがとてもいやなんだ。
だからラビさんごめんなさい。ほんの少し、少しだけ。距離を置いてもいいですか。
***
「朝陽……最近、俺のこと避けていないか?」
「えっ?」
俺がそう、端的に、切り込むように尋ねると、朝陽は下を向いた。いつものように顔をマフラーに埋めるのかと思ったが、そうではないらしい。どうにかして、こちらをみようとしているのがわかる。なにか、やはり言いたいことがあるのだろう。
彼は何を言いたいんだろうか? 俺に何か嫌なことを――もちろんそんな心当たりはないが――朝陽に言ってしまい、彼は俺を嫌いになったのだろうか。IBの中でも、朝陽は俺に――少し自意識過剰気味だが――懐いていた気がするのに。何があって、こんなことになったのかわからない。
どうどう巡りを続けた俺は、彼の答えを、決めつけた。もうとにかく、限界だった。好きな相手に遠ざけられることが、俺には酷く、辛く感じたのだ。だからつい、先走った。彼の思考を遮った。
「朝陽、正直に話してくれ俺のこと……嫌いになったのか?」
俺がそういった瞬間、朝陽がはっと顔を上げた。その顔は真っ青で、血の気が引いていて、ああ、悪いことを聞いてしまった、と一瞬にして俺を後悔の沼に突き落とすにはあまりにも十分なものだった。
何かを言おうとしている彼を見ているのが辛く、どうしていいのかもわからない。
その少しの、十分にも満たない時間が、俺には無限の時間に感ぜられた。相対性理論とはよく言ったものだと、あざけるように考えて、自嘲した。
「違うんです。ラビさん」
今度は俺が朝陽の言葉に顔を上げる番だった。
「俺が……嫌いなのは、ラビさんじゃなくて、ラビさんのことを好きだって言えない、俺自身なんです」
「は……?」
俺がそう言うと、朝陽は意を決したように声を上げる。
確かに普段は怯えて隠れる彼だが、一度決めれば強い男だ。彼には、誰より強く想いを貫くに力があることを俺は知っている。
「俺は、俺は……ラビさんのことが好きで、でも、どうして良いかわからなくて。それで、ラビさんと誰かが話していたら、嫉妬してしまう自分が……嫌で。俺、その、えっと。それで、ラビさんから少し距離を置いていました……避けていました。すみません」
朝陽はすべてを言い終わると、今にも泣き出しそうなのをこらえて、俺に頭を下げた。
俺は、頭の中が真っ白になって、どうすれば良いかわからなくなった。
「朝陽が、俺のことを好き……?」
そう俺が譫言(うわごと)のように呟くと、朝陽は肩をびくりと震わせて、またごめんなさいと謝った。
「えっあっ! 違う。違うんだ、朝陽」
「え? 何がですか、ラビさん」
朝陽は顔を伏せたままだ。俺に目を合わせようとしてくれない。ここ最近となにも変わらない。
俺は朝陽に、顔を伏せていないで上げてくれ。俺のことを見てくれ、と言った。すると、朝陽はそれに素直に応じて、不思議そうに、まだ怯えた――足が震えていた――様子で俺の言葉の続きを待っているようだった。
「えっと、あの、その……」
俺はここで大きく深呼吸をして、気持ちを入れ替えた。
「俺も、朝陽が好きだ」
「はい。…………え!?」
俺の言葉を聞いた朝陽がやっと、とても久しぶりに、まっすぐに俺を見た。
「好きだよ。朝陽」
***
花舞う春は過ぎたけれど、白雪降る冬もうすぐで、ひらり舞い散る落ち葉をさくさくふんで歩く君の、後をついて行く俺。
花のように笑う。花のような笑顔。それは誰が考えた言葉なのだろう。俺はその言葉を考えた人物に賞賛を送りたい。
だってあまりにも、その言葉は、朝陽にぴったりだから。
あとがき
歌のような詩を書いてみたくなり、夜中に壁打ちでがんがん打ち込んだものです。
お蔵入りするつもりでしたが、友人の温かい言葉かけでこのように、サイトで公開させていただくことにしました。
前半はラビ視点の詩、その後朝陽視点の詩、小説、ラビ視点の小説というふうな流れになっていました。
ここまで閲覧いただきまして、大変有難うございました。
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