御曹司と万年筆を買いに行く話
相互のお誕生日に捧げた石マニア夢短編です
ダイゴさんはいつも大人っぽくて優しくて、でも石のことやポケモンのことになると目を輝かせて語り出す。そんな子供っぽさも兼ね備えた魅力的な人だ。私がそんな彼の恋人である事は信じられないくらい幸福な事で、たまに本当は全部夢なのではないだろうかと思うことがある。
「ダイゴさん、今日はありがとうございました」
恋人に連れてきてもらったのは万年筆の専門店。どうして万年筆かといえば、最近私が日記をつけるようになったからである。
仕事で嫌なことがあった時、悩み事があった時、自分がどうして怒ってしまったのかなど、自分を多角的かつ客観的に振り返るために、文章に起こすことにしたのだ。人間の記憶とはひどく曖昧で、気を付けていないとすぐに自分にとっていいように、もしくは悪すぎるように内容を変えてしまう。それに気がついたのは、自分のSNSの呟きを見返していたときで、これは良くないと日記にすることにした。
日記をつける媒体は色々悩んで紙にした。SNSでは他人に見られないように設定しても、ウェブ媒体である以上どこかで情報がもれてしまう可能性がある。スマホのアプリを使えば簡単に記録はつけられるけれど、うっかり消えてしまう可能性がある。そう考えればアナログ媒体が一番勝手がいいということに気が付いたのだ。
自分だけの秘密の気持ち、記憶、物語を書き起こしていくうちに、道具にも興味を持った。そうしてついに自分用の万年筆が欲しい、だなんて強欲さが出てきてしまったのだ。しかし、自分一人では万年筆の知識がなく、ガラスペンとどっちがいいのかもわからないし、保存方法もわからない。ちゃんとしたものがいいのか、安いものがいいのか……色々と悩んではかりかねていたところ、ダイゴさんが「じゃあボクがおすすめを教えるっていうのはどうかな?」と声をかけてくれ、本日に至る。
「今日はすみません、おんぶに抱っこで」
「とんでもない。君が望むなら何度でも案内するよ」
ちょっと大袈裟な、彼の優しい言葉に思わず笑みが溢れた。そうして笑っていると、彼がまた声をかける。
「普段は君があまり、甘えてくれないから」
「そ、そうでしょうか」
「うん、そうだ。ボクって頼りがいのない男だと思われているのかな……と思ったこともあるよ」
「すみません……」
そんなつもりはなかったのだが、彼を知らない間に傷つけてしまっていたらしい。
ダイゴさんはホウエンのチャンピオンであり、大企業デボンコーポレーションの御曹司ととても多忙な人だ。
そんな彼の手を煩わせてはいけないと思っているし……何より私は他人に甘えるのが下手なのだと思う。自分でできる事は自分でやって、相手の迷惑や重荷にならないようにと気をつけているのだ。
しかし、それがとても冷たくうつるらしく、以前の恋人とはそれが理由で別れることになった。
それでも私にとっては難しい。
甘えるってどうすればいいのだろう。どこからどこまでなら、他人を頼っていいのだろう。どこまでが甘えて許されるラインなのだろう。
どうすれば、ダイゴさんに幻滅されないだろう。
「君はいろんなことを難しく考えすぎる癖があるよね」
帰り道にそう指摘されて、落ち込んでいたところ「そういう意味じゃない」とフォローが入ってから、話を続けられた。
「だから、一緒に考えない? ひとりだったら堂々巡りになることも、ふたりだったら新しいアイデアが生まれるかもしれない。ボクはもっと……君が楽しそうに笑うところを見たいんだ。君にリラックスして欲しいんだよ」
そうダイゴさんに言われて、口をついて出てきた言葉は自分でも予想していないものだった。
「違いますよ、ダイゴさん」
「えっ?」
「私は十分幸せですし、その……ダイゴさんといるだけでリラックスしています。だって、大好きな恋人の、隣にいられるのだから」
黙っているだけではダメだ、伝えなくてはダメだ。そうでなければ、どこかですれ違ってしまう。人間は簡単にすれ違って勘違いして、そうやって道が分かれて世界が分かれていく。すれ違ってしまう事は悲しい事だ。
そんな決意を秘めた言葉はきちんと彼に届いたのか、と見上げればダイゴさんが顔を真っ赤にして口元を腕で隠していた。
「見ないで、今、嬉しくて情けない顔をしているから」
「ふふふ、ダイゴさんの情けない顔、みたいですね」
「ひどい」
彼が最後に消えるように呟いた言葉は、私には聞き取れなかった。
「……我慢なんてできそうにないなあ」
診断メーカー「3つの恋のお題ったー」様より
ダイゴ夢への3つの恋のお題:君が望むなら何度でも/甘えるってどうすればいい?/我慢なんて出来そうにない
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