七夕SS
即興クオリティ、婚約者の頃の話
「今日は七夕だね」
「ああ、そうですね」
このポケモン世界でも七夕というのはある。ちゃんと織姫と彦星がいるし、伝わっている伝説も似ている。
というより、私たち転生者にとってはやはりジラーチが思い起こされるけれど、私はジラーチに会えるほど幸運でもなかったモブである。
ジラーチははがねタイプが入っているので、ダイゴさんあたりは出会ったら興奮で眠れなくなりそうなものだが、どうだろうか。
「織姫と彦星は、まるで私たちみたいだと思わないかい?」
何を言いだしたのだろう、この婚約者様は……と薄目で見てしまった。
「愛し合い、そして、一度は運命に引き裂かれても、またこうして君と出逢えた」
そう言いながら、ミクリは私を後ろから両腕で包み込むように優しく抱きしめて、首筋に触れるだけのキスをした。
「なんとも運命的だよね」
「……」
どう言えば良いのかなあ、と私が思わず黙り込むと、ミクリから「聞いてる?」と声をかけられた。
いやあの、聞いてたけど言葉を失っただけです。
流石に何かしらか気の利いた言葉を返すか……と振り向こうとしたら、ミクリと目が合って薄く微笑まれた後に口づけられて、リップ音と共に離される。
最近はずっとこうだ、目が合えばとりあえずキスをされる。
キスをされるときに、薄くでも酸素を求めて口を開ければ舌を入れられ、少しでも彼にしがみつけば深く口づけられる。
――彼に都合良く慣らされているのだ、と気がついた頃にはもう慣れてしまっていたのだけれど。
「確かに、ミクリと出逢えたことが、私にとって何よりも幸せなことです」
彼の求めていた答えだったのだろう、楽しそうな笑顔がそれを物語っていた。
「私もそうだ。君と出逢えたことが、何よりも幸せなことなんだ」
そういって抱きしめられた。
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