【ミクリ視点】私よりいい男なんていない

この小説はミクリ夢です
いろんな地雷に気をつけて下さい
※時系列はカロス編の後、ガラル編の前です

「師匠-、ちょっとカロスに行ってきますね」
「どの位行くんだい?」
 と言っても数日だろうと高をくくって尋ねると、彼女は少し首をかしげていた。
「うーん、長いと長引くかもですが……一ヶ月くらい?」
 流石にそれは長いな、と思い何があったのかと尋ねると、それは予想もしていない答えだった。
「お見合いするんですよ」

 にっこり笑う彼女に平素を取り繕えるくらい、自分は大人になったのだなとどこか他人事のように思った。


『ミクリさ、アザレアちゃんに何かあるたびにボクに連絡するよね』
「友人だからね」
『なるほどねー?』
 ダイゴはそう言うと、仕方が無いと言う風に笑いながらも、私の求めた資料を持ち上げて見せてくれた。
『相手は、アザレアちゃんの恩師の知り合いの息子さんだ。どうもロトム家電を作っている企業の御曹司みたいだよ』
「ロトム家電……そういうことか」
 アザレアは、でんきタイプマスターになるという夢以外にも、世界中の家電をロトム家電にするという夢がある。
『だからきっと、ロトム家電が好きな者同士だからってことで紹介されたんだろうね。カレッジの教授にアザレアちゃんはかなりお世話になったって前に言っていたから、かなり断りづらかったんだろう。今までも何度か断っていたみたいだし、なおさらね』
「……どうりで彼女も結構乗り気だったわけだよ」
 そううなだれると、ダイゴが苦笑していた。
 恩師からの紹介というだけで断りづらいだろうが、それでも彼女はNOが言えるホウエン人。本当に嫌なお見合いなら今まで通り断っただろう。
 それでも今回は受けたということは、もちろん恩師の顔に泥を塗らないためにも必要だったのだろうが、何よりロトム家電が好きな人間に会いたかっただろうな、と簡単に予想ができた。
 しかし、お見合いということは、ふたりは結婚を前提に会うわけで……つまり、少しでも気が合えば、それは、結婚というゴールを見据えた上で何度も会うことになる。それはちょっとした近道だ。
『ちゃんと言ったの? アザレアちゃんに、お見合い受けて欲しくないって』
「言ったよ……『私よりいい男なんてどこにもいないから、会うだけ無駄じゃないか』って」
『あはは……そうしたら何て?』
「『そうですね、それはそうでしょう。それがどうしましたか?』だよ」
 どうにも私は男としてカウントされていないようで、返ってきたのは「だから何?」という元も子もない返答だった。
『ちゃんと「君が好きだから他の男と会って欲しくない」って言いなよ』
「……」
 言えなかったのだ。
 彼女への想いなら絶対に誰にも負けないけれど、それはそうとしても彼女に男として見られていないなら何を言っても無駄な気がしたし、それを言うのはまだ早いと直感していた。
『で、どうするの? お見合い上手くいって欲しくないんだろう?』
「当然」
 最低な男だな、と自嘲してしまう。
 私は結局、彼女が幸せになるならそれでいいとは思えないのだ。
 彼女が他の男と幸せになることは認められない、彼女は私の隣で幸せになって欲しい。
「とりあえず、一回目のお見合いが上手くいったら手を打とうかなと思っている。……理想は彼女にお見合いを断って貰うことだから、出来れば手を出したくない」
『なるほど、分かったよ。じゃあとりあえずは見守るんだね?』
「ああ、何かあったらすぐにカロスに行くから、リーグは頼んだよ」
『えっ!? ああ、まあ、そうなるか。分かったよ。ミクリの頼みだからね』
 ダイゴがそう言ってくれた。


 それから数日して、彼女がカロスに旅立った。彼女の姿が見えなくなってからは生きた心地がしなかった。
 そして、お見合いだと言っていた日の夕方に「明後日にはホウエンに帰りますね」とメッセージ送られてきた。
 あからさまに顔に出ていたのだろう。そんな私を見たミロカロスも顔を明るくした。

「おかえり、アザレア。お見合いはどうだった?」
「うーん、結構いい人だったんですけどねえ。ダメです。ちょっとお互いに考えられないのでお断りしてきました。円満和解です」
 なんて、大げさな喧嘩をしたかのように言うけれど、彼女の顔を見ると相手のことがよほど気に入らなかったのだと分かった。
 それでも今後のために調査しておく必要があると、彼女に探りを入れると「いやー」と言って話してくれた。
「実は、鞄の中にすーちゃんが入っていまして」
「すだちが?」
 すだち、というのは彼女のバチュルのことだ。すだちなのですーちゃん、とアザレアは呼んでいる。
 すだちはバチュルたちの中でも特にアザレアに懐いており、頻繁に勝手についていくらしい。すだちはトレーナーにひっついているのが好きなのだろう。すだちがいつの間にかついてきたことにアザレアが気がつかず、他人に「背中にいる」と指摘されて気がつくこともあるらしい。
 アザレアいわく「甘えん坊でいたずらっ子、おまけに冒険家で勇敢。どんどん外に出て行こうとするんですよ」とのこと。
「すーちゃんがぴょんっと鞄を開けたときに出てきまして、テーブルに乗っちゃったんですけど、相手のお顔が真っ青に……。どうも、むしポケモンがダメな人だったみたいで」
「ああ……なるほど」
 確かに、そういう人間は多い。
 ジムリーダーでさえ、むしポケモンが苦手だという人間もいるらしいし、むしポケモンが苦手な人間というのは一定数いるようだ。今回たまたま、お見合い相手がそうだったのだろう。
 私は別にどうってことない。
 私の家には今少なくともアザレアから譲られたネーブルという名前のバチュルと、彼女に「デンヂムシって落ち葉を食べて消化するときに電気にするんですけど、うちの庭、落ち葉落ちるほど広くないんですよね」と言って預けられたデンヂムシがいる。
 二匹ともとても大人しく、そして生活を手助けしてくれるポケモンだ。
 バチュルは家中の不要な静電気を食べてくれ、漏電にも気がつくらしい。デンヂムシは家庭一日分の消費電力を溜め込める電気袋のおかげで、電気代いらず。おまけに落ち葉も食べてくれる。
 二匹とも彼女に言わせれば「絶対に近い将来皆が持つことになるポケモン」らしいので、家電メーカーの御曹司はかなり損をしているだろう。
「私の可愛いすーちゃんを可愛いと言えない人には興味がありませんし、相手も『すーちゃんがついてきちゃった』って言うと恐怖で震えていましたからね。お互いのためを思えばさようならです。まったく、仕方ない反面失礼な話ですよ。ねっ、すーちゃん!」
「バチュッ!」
 そういってアザレアはすだちと頬ずりをしていた。
 なるほど、今回は命拾いしたかな、と思いつつすだちを指先で撫でると、すだたは体をすり寄せてきた。
 元々すだちは人懐こい性格で、誰にでも好意的に接する子だ。そんな子だからこそ、青い顔をされて少なからずショックを受けたはずだ。アザレアがここまで相手を悪く言うのは、すだちを守るためでもあるのだろう。
「私、一緒にいるならでんきタイプ大好きな人じゃないと無理です! 少なくとも、師匠みたいにすーちゃんを大切にしてくれる人じゃなきゃ!」
 確かに。
 当たり前のことではあるがポケモンは私たちにとって大切な相棒だ。やはり、その相棒を大切にしてくれる人とでなくては家庭は上手くいかないだろう。事実、ポケモンとパートナーの相性が悪くて別れたというのも珍しくはない。
 それでも君は、不用心だ、と思った。きっとその言葉の意味をわかっていないのだろう、と。
「ねえ、アザレア」
 そう呼びかけてから、腰を抱き寄せて彼女のこめかみのあたりにキスを落とした。
「うわっ、なんですか?」
 彼女がこちらを向いたけれど、それこそ鼻が触れあいそうな距離だったので、彼女の動きが止まった。
「やっぱり、私よりいい男なんてどこにもいないから、会うだけ無駄だっただろう?」
 そう言うと、彼女はきょとんとしたあとに、思い切り笑い始めた。
「……ふふ、ははは、そうですね! 師匠より素晴らしい人はどこにもいませんね」
 楽しそうに笑う彼女を、包み込むように抱きしめた。

【こめかみへのキスの意味 : 慰め】

Atorium

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