工モンガは心配症
ミクリとオリ主の息子の話です
父親はルネシティのジムリーダーを皮切りに、コンテストマスターでホウエン地方のチャンピオン。母親もキンセツシティのジムリーダーとくれば当然、当たり前のように小さい頃から注目が付きまとってきた。そんな環境が徐々に嫌になる前に、両親はオレをホウエンの学校ではなくアローラの学校に行かせてくれた。在学中にしまめぐりを終え、無事アローラリーグに挑戦したが、まだオレの実力ではチャンピオンのヨウさんに会うこともできなかった。そんなこんなで、またホウエンに戻ってきてホウエンのジム巡りにチャレンジしている。
「エモエモッ! エモッ!」
「ちょっ、エモンガ。ペシペシしないで」
コンテスト会場で、エモンガにペシペシ叩かれるジムリーダーの息子は流石に目立つ。エモンガというホウエンでは見かけない珍しいポケモンというのももちろんあるのだろうけれど。
「ごめん、やっぱり今日話すのは無理みたい」
「ううんいいよ、気にしないで」
彼女はそう言って笑ってくれたけれど、流石に申し訳ない。この件、どうにかしなくちゃいけないなあ……とオレは考え込んだ。
両親がたくさんのポケモンたちと一緒に住んでいたため、オレはそのポケモンたちから子供のように可愛がられて育った。
中でもエモンガは「自分がこの子を育てた」という意識が強いらしく、オレに対して過保護で心配性だ。そんなエモンガなので、オレが女の子と仲良さそうに話すのが心配なのかもしれない、と考えていた。とはいえ、あそこまで話すことを邪魔されては敵わない。最初は構ってやるのが足りないから嫉妬しているのかとも思ったが、そうではないらしい。
エモンガは母さんのポケモンだったので、母さんに相談した方がいいのかもしれないが、母さんは大変忙しいらしく父さんに話を聞いてもらっていた。
「オレが何回、それやめてって言ってもエモンガはオレのいうこと聞いてくれないんだよ」
何度も人と話している時に邪魔してはいけないと伝えたのだが、エモンガはやめようとしなかったので、ほとほと困っていた。しかも、昨日話している時に邪魔された相手はオレの恋人だったこともあり、これ以上恋人との時間を取られるのが嫌でなんとかしたいと相談した。
「って感じでエモンガが邪魔するんだよね」
流石に父親相手では恋人だとは言えなかったけど、そんなものだと思う。
「ふうん」
父さんはそう言ってお茶を一口飲んだ。
「本当に、何人かの女の子だけになんだよ。すっごいオレが話すのを嫌がるんだ」
「その、特定の女の子たちに、というのは……何か共通点が?」
「共通点? いや、特にないと思うけど……」
そう答えると、父さんはそうか、と返した。
「なるほどねえ……。アルが困っているのなら、私が少しの間、エモンガを預かろうか?」
「えっ、父さんが」
「エモ?」
遠くの方で他のポケモンたちと遊んでいたエモンガが、心配そうな顔でこちらに飛んできて、父さんの前に座った。
「どうかなエモンガ。アルは困っているみたいだし、少しの間、私が君と一緒に過ごすのは」
「エモ……?」
困ったように、オレと父さんの顔を交互に見ていたが、父さんが抱きあげてやると、嬉しそうに笑っていた。
「エモンガ、親は子を心配してしまうものだけれど、時には見守ることも大切なんだ」
「エモ」
「だから少しの間、アルから離れて、彼を見守ることにしないかい?」
エモンガは少しの間、固まった後に父さんに抱きついて、頷いた。
「さあエモンガ。マッサージでもしてあげよう。アザレアも君に会いたがるだろうから、せっかくならきれいになって会いたいだろう?」
「エモエモ!」
嬉しそうに笑うエモンガを撫でてやりながら、父さんはオレに一言。
「……アル、君はまだまだ半人前だね」
オレはその時「エモンガがオレのいうことを聞かない」から、そう言われたのだと思った。
◇◇◇
「父さん、エモンガは?」
「おや、どうしたのかな。今日はまだ帰ってこないのかと思っていたよ。君は今日コンテストに出る日だっただろう?」
そうだ。コンテスト会場から直帰してきた。普段はその街のポケモンセンターで一泊してから帰るが、今日はすぐにエモンガに謝らなくてはいけないと思って、急いでルネに戻ってきた。
「オレ、エモンガに謝らなくちゃ」
「ああ、そういうことか。多分庭で遊んでいると思うよ」
「ありがとう」
庭に出てすぐに、オレの顔に白いフワフワが飛びついてきた。
「エモーーーー!!」
「エモンガ!! ごめんね、オレ、勘違いしてた」
「エモ?」
「もっとちゃんと、エモンガと話さなくちゃいけなかったんだ」
そう言うと、エモンガはブワッと勢いよく泣き出して、オレから離れなくなった。ぽたぽたと大粒の涙を流して「エモ、エモ」と泣き出したエモンガに何度も謝った。
「エモンガ、こんなオレだけど、これからも一緒にいてくれる?」
「エモ!」
にっこり笑うエモンガにをオレは抱きしめた。
「っていうわけでさ、オレ、遊ばれていたみたいで」
初めての恋人ができたので浮かれていた。今日その恋人だと思っていた彼女がコンテスト会場で他の男とキスしているところを見て、固まってしまった。いやでも、挨拶のキスかも。なんて、ここはホウエンなのに必死に現実逃避をした。
「ああ、アル、やっと気がついたんだ」
「やっとって何!?」
同じく、コンテストを頑張っているライバルは、貴重な同年代の男友達だ。彼を捕まえて事情を聞けば、彼女は年下の男を食い物にしては遊んでいる女で、オレはそのおもちゃとして選ばれたんだよ、と教えられた。
「僕が教える前にアルは相手に惚れちゃってたし、なるようになるかなって放っておいてた」
確かに、彼女は年上で優しくて包容力があるひとだった。彼女は聞き上手で、話しやすかったこともあり……と簡単に惚れ込んでしまったのは否定しないが、
「放っておかないで!?」
良くも悪くも、オレの両親のことを知った上で特別扱いしない彼らしい。放っておかないで欲しかった。
「だって僕が言わなくても、エモンガが邪魔していたじゃないか」
「えっ」
「君が悪い噂がある女の子に話しかけられるたびに、エモンガは君を叩いて気がつかせようとしていた」
オレはいい友人を持ったことに感謝した後、どうしてエモンガに「いうことを聞かせよう」としていたのかと、自分が恥ずかしくなった。
「……ってことだったんだけど、父さんはもしかして、気がついていたの?」
エモンガはポケモンだから、人であるオレよりも鋭い感覚を持っており、その「危険信号」に従ってオレを心配して守ろうとしてくれただけだったのに、オレはそのことを分かっていなかった。父さんはエモンガを引き取った時から、エモンガが悪いと、思っていなかったのではないだろうか。
「君が悪い女性に引っ掛かったこと?」
「えっそこから?」
嘘、オレの個人情報筒抜けすぎじゃない? 父さんの情報網怖くない?
オレが固まっていると、父さんはいつもの笑みを顔に浮かべながら、オレの頭を撫でた。
「隠せているつもりだったなんて……フフフ……」
全部最初から何もかもご存知だったらしい。やだ、なんで、やだ。
そんな考えが頭の中をぐるぐるとするが、エモンガがニコニコ笑いながらお菓子を食べていたので、少し落ち着いた。
「君はまず、エモンガと『どうして叩くのか』と話し合わなくちゃいけなかった。トレーナーにとって大切なことは、ポケモンたちを信じることだよ」
「……返す言葉もないよ。オレ、きっとしまめぐりが終わって、調子に乗ってたんだ」
今さらだが、冷静になって考えれば、エモンガは「特定の人と話すときだけ」邪魔をしたのだから、共通点があったはずなのだ。そのことを深く考えもせず、彼女が悪いだなんて考えることもなく、ただエモンガが「人間の事情」をわかっていないんだと一方的に決め付けていた。
本当にそうか、エモンガはオレが小さい頃からずっと見守ってくれているポケモンなのに、と今は後悔しかない。
「今回のことで、それが学べたのなら大丈夫。今回は上手くいかなかったようだけど、自分が生涯愛し続けることができる人にも、いつか出逢えるだろうから、気を落とさないで」
父さんはそう言い終わると、エモンガがマッサージをされて、リラックス状態でとろけた笑みを浮かべている写真を見せてくれた。めっちゃ可愛かった。
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