不信の果てに

捏造と地雷だけ
ゴヨウさんがでてきます

「そんなに私が信じられない……?」
「……ごめんなさい」
 私が謝ると、彼は自分のことを話してくれた。
 幼い頃から私が好きだったこと、一時的に記憶を失っても想いは失わなかったこと。
「だから、たとえもう一度君を忘れたとしても、私は君に恋をして君を思い出す。嘘だと思うなら試せば良い。その試練は必ず乗り越える。……そうすれば、君が私を信じるというなら」
 その提案に、私は魔が差したのだ。
 私は貴方の記憶から消えてしまいたかった、貴方は私に信じて貰うためならそれを受け入れようと言った。
 ダイゴさんはこの事を知ったとき
「それがミクリの選択なら、君たちの選択なら、ボクには止める資格が無いけれど。……本当に君たちには、それしか選択がなかったのかい?」
 と静かに怒られた。
 守り神が、私たちが本当に信じ合うために――否、私が彼を信じられるようになるために、その試練を与えてくれたのだ。


 シンオウの高等教育は、大学と呼ばれる。
 ホウエンから離れようとシンオウに学びに来ていた私は結局運命から逃れられないと知ることになった。
「新しく来た客員教授の授業、すっごくよかったよ! 一緒に行かない?」
「一緒にと言われましても……」
 教授のかっこよさではなくて、学びたい分野と重なるかが一番重要なところだと思う。どんな内容なのかと聞くと、なるほど「栄養学とコンテストの関連について」だそうだ。それは面白そうである。
「もうすっごい有名なんだよ、授業も面白くてその教授は優しくて、かっこ良くてーって!」
 可愛らしくて、いつも花が満開に咲くように笑う友人がそう言うので、私は大人しくついて行くことにした。

「では、テキストの内容はここまでですが、何か質問はありませんか?」
「はいはい!」
 友人は隣で熱心に手を上げるが、私はそんな気になれない。手を上げることも億劫な上「ふへーなるほどー」みたいな感想しか出てこず、質問も思い浮かばない。
 何度目かの質問タイムで教授が――ミクリさんが友人を当てた。ところが、友人の番になって幸か不幸かマイクの調子が悪くなり、聞こえなくなってしまう。仕方がないとミクリさんがマイクを持ったままこちらへ歩いてきた。
 友人の隣にいる私を一瞥してから、友人にマイクを渡した。
 ほら、貴方は私に気がつかないよなあ。


 友人はひとりで集中してレポートを書きたいというので、私はカフェでひとり、本を読んでいた。
「こんにちは」
 そう、声をかけてきたのは本校の客員教授でもあり、シンオウ最強の四天王と呼び声高いゴヨウさんである。
「お隣よろしいですか?」
「どうぞ」
 簡単に断りを入れてから席に座る動作まで洗練されていて、彼の品性の高さを知る。
 ゴヨウさんは手に持っていたコーヒーを置いてから、失礼ですが、と私に質問をした。
「どうしてずっとサングラスを? いえ、貴方の素敵な琥珀色の瞳が見えないのは、寂しいと思いまして」
 あー、これか。なんだか、その褒め言葉は妙な感じがした。少しくすぐったいような、そんなに大切にして貰わなくてもいいような。とはいえ、昔からゴヨウさんは私を宝物のように形容するなあ、深い意味は無く単に彼はそういう言葉選びをする人なのだろう。
 確かに室内でも瞳の色が分からないほど濃い色のサングラスをする人間は珍しい。逆に言えば「何かある」から、室内でもサングラスをしているわけだ。多くは身体に何かしらの不自由さを抱える人が多いため、ミクリさんも一瞥しただけですっと目をそらしたのだろう。何か理由があるのだろう、と聞かないでおいてくれたのだ。
「学内ではつけているだけで、不自由さがあるわけではないです」
「……そうですか、良かった」
「つけてると案外便利ですよ。うちの子たちが突然光っても驚かなくてすみますし、ディスプレイが必要な作業なら長時間見ていても目を痛めづらいんです」
 そう説明したがゴヨウさんは納得出来ないようだった。そりゃそうか、だって「ディスプレイを見るときだけ」かければいいのに、私はそうしていないからだ。じゃあなんで、普段からしているのか。ゴヨウさんは聞かないでおいてくれることを選んだ。少しだけ救われた。
「よろしければ、食事でも一緒にいかがですか?」
「教師と生徒が男女でふたりきりはまずいと思います」
「なるほど」
 ゴヨウさんはそう言うと、にっこり笑って続けた。
「でしたら、教師と生徒としてではなく、ただの男女としてなら可能ですか?」
「いや、それはもっとまずいと思います」
「はて、それはどうして?」
「どうしても何も……」
 彼は時々、私を困らせるようなことを言ってからかってくる。男女としてってなんだよ、と私が言い淀むとゴヨウさんは軽く笑った。どうやらまたからかわれていたようだ。
「……それでは、バトルも一緒にというのは如何ですか?」
「それなら行きます!」
 四天王と実際にバトル出来る機会は少ない。それにゴヨウさんは四番目の四天王。会うにはあのトラウマになっているキクノさんを突破するという関門があるし、突破してもオーバさんがいる。
 私がバトルを出した途端に態度が変わったことが面白かったのだろう、ゴヨウさんに笑われてしまった。
「あちらにバトルフィールドがあります。そこでやりましょう。終わってから反省会という流れでよろしいですか?」
「はい。反省するのはそっちですけどね!」
「おや。私も負けるつもりはありませんよ」

 そんなことを言いながらふたりで歩いていく様子を遠くでミクリさんが呆然と見ていたことを私は知らなかった。



 ガラル編の後に分岐したルートのお話です。
 ミクリが記憶を思い出すトリガーって、アザレアの瞳なんですね。なので彼女の瞳を見ないと思い出せない→アザレアはそれを知ってるのでサングラスで隠している→ミクリはサングラスで隠されているので気がつけない
 と言う話です。
 プロット上存在した、いくつかのルートのひとつで、この後ミクリがアザレアのサングラスを取ってしまえば記憶が戻ります。
 ミクリの方は、アザレアのことはすーっと目が流れてしまっているんですが、なんとなく気になっています。
 最後のシーンでふたりが歩くのを見てどうしてか胸が騒ぎます。
「さすがに教師と生徒がデートするのはまずいのでは?」
「おや? そう見えてしまいましたか?」
 ってゴヨウさんに話しかけています。
 このルートは、アザレアの自尊心が育たないうちに告白してしまうと発生します。

Atorium

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