三時のおやつ彼のおやつ


 チョコは美味しい。よく三時のおやつの時間になったら、もぐもぐ食べている。しらたまたちや他のポケモンたちにもお菓子を与えて、私の本日のおやつはチュロスだ。チョコ味のチュロス。前世では夢の国でしか食べたことがなかったが、ルネのお菓子屋さんに売っていたので買ってきた。チュロスを咥えたまま虚空を見つめてぼんやり。そんな穏やかな午後のひと時を破るのは私の食べていたチュロスを反対側から食べるミクリだ。……ミクリだ!?
 ポッキーゲームよろしく反対側から食べてくるので、私はミクリとの距離がぐんと近くなったため、口からチュロスを離して諦めた。どうぞお食べください、というやつだ。
 彼は最後までチュロスを食べていた。そして、考え事をするように少し目を伏せた。その少し付せられたまつげが長くて綺麗で、何をしても絵になる人だなといつも思う。
「美味しいね、買ってきたの?」
「そうです、私のおやつです」
「つれないなあ」
 一本上げたじゃん! と食いしん坊の私が主張すると、ミクリは目を少し細めて笑い始めた。とっておきの悪戯を仕掛ける前のような、小悪魔的な笑みに私はひやりとした。何を言うつもりなのだろう。
「チョコチュロスなのに、かなり食べやすいね」
「ええまあ、そんなに甘くないですけど」
「ふうん、珍しい。わざわざ探して、見つけたのかな?」
「ええまあ、美味しいのって探したくなりますから」
 そこまで言うとミクリの笑みが深くなったので、何か言ってしまったらしいと言うことを察した。しかし、何を言ってしまったのかが分からない。なんだ、どれだ。
 そう考えていたら、ミクリに唇を舐められた後にキスをされた。さすがに結婚している仲なので昔ほどは動じないけれど、もうワンアクション欲しい。
「やっぱり、あんまり甘くない。私にとってはアザレアがいちばん甘いから、それで良いんだけど」
 口ぶりから察するに、私が口に溶けたチョコをくっつけていたので舐めとったのだろう。それだけにしては大げさなセリフだけれど、彼はそう言う言い方を好む人だ、と思う。
「お、お見苦しいところを……」
 謝ったけれど止められて「舐めとって欲しかったんだよね?」と言われたので首を横に振って否定した。違います、偶然です。ごめんなさい!!
「さっきは『私のおやつ』って言っていたけれど、本当は私と一緒に食べようと思って買ってきてくれたんだよね? だって君はとびっきりの甘党なんだから、本当に自分用だったら、もっと甘い物を食べたいんじゃない?」
「うっ」
 言葉に詰まった。さて、どう答えようかなと思考を巡らせるけれど、いつも言葉を紡ぐのはミクリの方が早い。
「チュロスという食べ物もそうだけど、本当は私と二人で食べるために買ってきてくれたんだよね?」
 そうにっこり、と笑われてしまっては私も白旗を振るしかない。降参です。
「そうです、ミクリが気が向いたときに、一緒に食べられるものをと思いまして」
「わざわざ私も食べられるものを……そう、やっぱり。ありがとうアザレア。……私と一緒に過ごすようになってからずっとだよね、私と一緒にと選んでくれる。カロスにだって誘ってくれたし」
「いえ」
 大したことではないのだ。せっかく美味しいものを食べるならひとりよりふたりがいい、そっちの方が楽しいじゃないか。そう思うのは大切な人ならばそれこそ自然なことだろう。だから気にしないで――と続けようと思ったら
「それに、チュロスを片方だけくわえていたのも、反対側から私が食べるのを待っていたんだよね? もともと、こうして欲しかった?」
 彼がわざとらしく閃いた、と言いたげな明るい顔でそう言った。
「ミクリさんはそうやってすぐにからかう!!」
 そう否定したかったのに、気がついたらまた唇を彼に塞がれた後で、角度を変えてもう一度キスチュロスをされてから解放された。
「キスをねだってくれたっていうことはそういうことだよね。フフフ……」
 私の顔はオクタンのように真っ赤になっていたのだろう。それを見たらしい、ミクリの悪戯が成功しましたと言わんばかりの柔和な笑みに、私は唇を引き結ぶしかなかった。
 結局チュロスは二人で食べた。


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