【後編】許嫁を名乗る不審者に家凸された件について


 つまり実は名家の人間に見せかけてほとんどみそっかすのように端っこにいる私だったと判明したわけだが、ノニというみいとこはもっと災難で、アダンさん経由で話を聞いたところ、父のダージによって幼い頃から「許嫁がいる」と教え込まれていたらしい。ほとんど洗脳じゃん。……なんか同情するな。
 アダンさんもノニには厳重注意をしたそうだが、彼は私が婚約していることや、父がオオバコとは縁を切ったことも知らなかったそうで、ほとんどダージという父親の被害者だったらしい。まあ、婚約はまだ発表してないしなあ。後日「何も知らなかったとはいえ、怖い思いをさせてしまってごめんなさい」というような謝罪の手紙が来たので、読んで燃やしておいたとミクリに言われた。勝手に読んで燃やすな。

 そして、私はとあるメールを受け取って、ミクリに相談した上でメールの送信者に会いに来ていた。
「貴方がメールをくれた?」
「はい、オオバコ・コナです。ノニが先日はご迷惑をおかけしました……」
「いえ、まあ相手も勘違いみたいなものですし」
「ええ、そうといえばそうなのですが……」
 ミクリが彼女に顔を上げるよう言うと、コナさんは無理して笑ってみせた。
「先日は、ノニがごめんなさい。ノニに悪気はなかったんです。それだけは、信じてあげて下さい」
 そう言って彼女は深々と頭を下げた。

 彼女はノニの幼なじみでオオバコの人間らしいが、私からはかなり遠縁に当たるらしい。最近はやたらと親族に会うなあ、なんて思いながら頭を下げた。
「もう気にしないでください、私としては縁が切れたらそれでいいんで。勝手に許嫁とか馬鹿みたいでしたけど」
「アザレア……」
 小声でミクリに小突かれた。ちょっと本音が出過ぎたようだ。もうあんま関わってこないでくれたら謝罪とかも書面だけで良かったんですけどね……まあまたミクリが燃やすかもしれないけど。私が読んでも燃やすので結果は一緒だ。
「いえ、仰る通りです。私も、オオバコの結婚のやり方には思うところがあります。時代にそぐわないと思いますし、何より個人の気持ちを無視しています。アザレアさんがそのように仰るのも無理はありません。それでも、ノニはなんと言うかその中でも素直に生きていて……とそこだけは誤解を解きたかったのです。どうか、話だけでも聞いてもらえませんか?」
 まあ一応ここにきたわけだから、話ぐらいは聞くつもりだし、コナさんの見た目がなんとなく父のそれに似ていて「やっぱり親族なんだな」と感じたこともあり、親近感が湧いていた。
「大丈夫ですよ、どうか聞かせてください」
 と私は続きを促した。


 ノニはなんと言うか、良くも悪くも素直な性格だった。そのため、父親に許婚がいると言われた時も少女漫画の主人公のように、相手はどんな人なんだろうと憧れのようなものを持っていたと言う。
「コナ、僕はその人と結婚するんだよってお父様が仰ったんだ」
「お父様が仰ったとしても、顔も知らない人だよ?」
「今はそうだけど、それってとってもワクワクするだろう。だからいつか、立派な男になってその子を迎えに行くんだ。そして、その子に選んで貰えるような、恥ずかしくない自分でありたいんだ」
「そっか」
「だから、もっともっとお勉強もがんばろうと思うんだ」
「……そっか、応援しているね。ノニ」
「ありがとう、コナ。同じオオバコの人間として一緒に頑張ろうね」
「うん」
 そんな話をしたぐらい、ノニは「いつか出会う許婚」を運命の人のように思い込み、相手がまさか絶縁した親族だとは知らなかったのだろう。コナから見てもノニの父親は当主とはいえ自分勝手で、考え方が時代にそぐわない。それでも、ノニはそんな父の事業や考え方を尊敬していたのだと言う。
「子が親を慕うさまは美しいと思いますが、彼は少し、世間知らずでした」
「と言うことは、コナさんはそんなに箱入りじゃない?」
「そうですね。箱入りといえば箱入りですが、お恥ずかしい話、私はかなり現実主義的なのです。そういったこともあり、夢想できるノニに憧れていたのですよ。私は現実を見ては落ち込んでばかりで、自分はダメだと思うばかりでした。けれど、ノニはその中でも夢を見つけ、前向きに努力し続けられる優しい心を持った人ですから」
 とはいえ、そういったノニの悪いところも知っていたのなら、自分が幼なじみとして彼を嗜めるべきだった、とコナさんは悔しそうに話した。
「実は、アザレアさんのことはお名前も知らず、そしてオオバコと縁を切ったと言うことも知らなかったのです」
「情報が流されていない……ダージさんに止められていたということですか?」
「はい、おそらくは。アザレアさんのご両親に縁を切られたことが余程悔しかったのだと思います。恥だと思っていたのかもしれませんし、ダージの中ではそれを認めていなかったのかもしれません」
 ミクリの質問に、コナさんは困った表情でそう答えた。うわあ、思っていたよりもダージが諸悪の根源なのかもしれない。
「……でも私も、家族も実は気がついていたのです。ノニの言う『許婚』というのはとても一方的なものなのではないか、と。だって私、今日初めてアザレアさんに会いましたから。名前も知らない親族と結婚の約束なんて、信じがたいことです」
 全くその通りである。それでも口に出せないほど、ダージという人は一方的で、そして権力を持っていたのかもしれない。そう思うと洗脳されていたではないが、だまされていたノニも、アダンさんに注意されすぐに謝罪したことを考えれば、よくできた人間である。コナさんの言う通りなのだろう。
「ですから、恥とは思いながらも、今回このようにお呼び立てさせて頂いたのです。本当は、私が彼を止めるだったという気持ちが強く、私が貴方に勝手に謝ることで、救われたかっただけなのです。ノニのことをと言いながらも……卑しくも、私の話です。本当に、申し訳ございませんでした」
 そう言ってコナさんは謝ってくれたけれど。もうそもそも怒っていないしなあ、なんて考える。まあ、最初はノニのことを気持ち悪いとか変な奴だと思ったが、話を聞けば聞くほどかわいそうだし、こんなに謝られているのに許しませんというつもりはなかった。
 ……ということを言いたいが、どうしようか。ここで今、コナさんに「もういいんですよ」と言ってこの問題は解決するのだろうか。ダージという男の勝手な思い込みはここでぶっ潰しておかないと、後々ミクリにも迷惑をかけてしまうのではないか。そう考えだすと、このままここで終わっていい気はしない。ノニのことも、コナさんのことももういい。問題はダージとかいう勘違い困った亭主関白のことだ。
「ミクリ……」
 名前を呼んで、横の彼を見れば、彼が薄く笑った。任せて、と彼の薄い唇が動いた。
「コナさん、お気持ちは十分にわかりました。私も彼女も、ノニさんとコナさんに怒っているわけではないのですよ。ただ、コナさんはまだ、私たちに隠していることがありますよね?」
「えっ?」
「そこでひとつ、私の方でお願いがあるのですが……」

 えっ、何をするつもりなんだこの人。



「マチュマチュ、マッマッ!!」
「おお、しらたまが一番気合が入っているね」
「マチュ!」
 ミクリの声かけに答えながら、しらたまは短い手でパンチを繰り出すことをやめない。例の届かないパンチだ。いつでも来い、と言わんばかりの気合いだが、その気合が空回りしないことを祈るだけである。
「本当にいいのかい、お父様はかなり厳しい人だけど……」
「大丈夫、案内お願いします」
 不安そうな顔をしたノニに、私は自信を持って答える。
 ミクリがコナに提案したうちの半分はこれだ、オオバコ家の人間が一堂に集う機会があれば、その機会に潜入させてほしい。そしてその機会に、絶縁を申し出ようというものである。
 今回はオオバコ家主催で、ホウエンの名家が集うパーティーのようなものがあるらしい。会場にはツワブキ家からはムクゲさんが、他にもアダンさんが呼ばれているらしい。ミクリも名家の人間では、と聞くと「そこまでじゃないさ」と言われた。この辺のルネのたみの事情は詳しく教えてもらっていないのでよくわからない。
 アダンさんからは、近くに居合わせるように気をつけますね、と言ってもらった。流石に申し訳ないような……と言うと
「いえ、乗り掛かった船ですし。それに、証人は大いに越したことはない」
 とのこと。そして、ホウエンの名家の皆さんの前で絶縁を言い切ればいいだろう、と言うまあなんともワンダフルな計画だった。ミクリは時々、かたやぶりなことをすると思う。とはいえ、そうでもできる発想力がなければ、コンテストマスターは難しいのかもしれない。

 セキュリティ的に通れない場所でも、隣にノニがいてくれて通してくれるとのこと。まだ会ってはいないが、コナさんやその家族も来ているので、今度こそ絶縁を有耶無耶にさせないぞ、と言うことだ。
「アザレアさん、本当にこの前は怖がらせてごめん……手紙は読んでくれた?」
「読みましたよ。ノニさんも、そこまで気に病まないでください。あれは悪夢のようなものだったと思っていますから」
 代わりに答えたのはミクリだ。そうだね、私読んでないもんねうん。読む前に燃やされちゃったからねうん。
「そうならいいのですが……僕は、自分のことだけを考えて暴走して、とても浅はかな行いをしたと思います。本当に申し訳ありませんでした。改めて直接謝らせてください」
「わかりました、お気持ちきちんと受け止めましたから」
 私がそう言うと、ノニはほっと息を吐いてから、にこりと笑ってくれた。
 ノニは第一印象こそ最悪だったが、コナの言う通り、悪人ではないしむしろ自分の過ちをすぐに認められる優秀な人材だと思う。何か、どこかで歯車が違っていたら、彼と結婚したのかもしれないな、と頭の片隅で考えた。

「マチュマチュ」
「はい??」
 しらたまがノニに話しかけた。
「マチュ、マチュマチュ、マチュ」
「ええっと??」
「マチュ、マチュマチュ、マチュチュ」
 しらたまが一生懸命ノニに話しかけているけれど、ノニはずっと困ったままで私に助けを求めてきたが、私にもしらたまが何を言っているのかわからない時はある。と言うわけで、トワ、とスマホロトムを呼び出せば通訳してくれた。
「ノニとしらたまたちはもう仲直りしたから、お友達ロト。後、そこのお菓子は食べてもいいかって聞いているロト」
「お腹空いてたんかい!」
 私が思わず突っ込んでから謝ると、ノニが「もちろん、ポケモン用のご飯もあるから好きなだけ食べてね」と言ってくれた。そうか、しらたまもパンチをずっと繰り出していたのでいつもよりお腹が空いていたのかもしれない。しらたまの頭を撫でると、不思議そうな顔をしていた。
 今日はしらたまだけではなく、ライボルトもいる。どうしてもボールに戻りたくないと言って聞かないので出しているのだが、ノニがずっと震えていた。噛まれたことがトラウマになっているらしい。まあ、ライボルトはちょっと強面なポケモンだからなあ、こんなに可愛いのにね……。



 しらたまもライボルトもお菓子を食べて準備はバッチリ。いつでもこいとまたしらたまがシャドーボクシングを始めたところで、ノニが私に声をかけてくれた。
「お父様が、人に集まるように言っているらしい。今だよ」
「うん、行こう」
 私の声に、しらたまとライボルトが答えた。

「ノニ様、そちらの方は? こちらには、ダージ様の招かれた方しかお入れしないようにと言われているのですが」
「何を言うんだ、彼女たちもオオバコの人間だよ。見たらわかるだろう?」
 そう言って、ノニは私を指差した。えっ、そんなオオバコの人間の顔っていう顔をしているのだろうか……と思っていたら、使用人は「失礼しました」と言って下がった。
「君のその瞳の色は、光が当たれば金色、普段はオレンジ色。オオバコ家の特徴的な瞳の色だからね。すぐに一族の人間だとわかるよ」
「そうなの!?」
 そういえば、ノニもコナも同じ目の色をしていた。深く考えなかったが、やっぱり親族なんだなあ、と妙なところで遺伝子を感じさせられた。この瞳のことを後にアダンさんに聞くと「アザレアさんの瞳はオオバコ家のものに似ているとは思っていましたが、まさかでした」と言われた。憶測の域を出なかったので何も言わなかったと言うことらしい。
 会場は壁際に食事が置いてある、簡素な立食パーティーの会場のようになっていた。私とミクリが……主にミクリが入ってきたことに関して、ざわざわと騒がしくなった。よく見れば、部屋の隅にアダンさんもいる。アダンさんはこちらを見て、にこりと笑った。

 一番奥の、窓際にいた男性が私を振り返って「……なるほど」と一言呟いた。その男性に向かって、ノニがお父様、と呼びかけたことで当主のダージだと分かった。
「話があって、彼女と一緒に来たんです。聞いてください」
「その必要はない」
「必要があります、聞いてください」
 ノニはそう言って、ダージの前に行くと、私とのことを話し出す。主に、私がすでに婚約者を得ており、私はオオバコ家と縁を切った人間であること……などだ。
「ですからどうか、彼女の自由を認めてください」
「話はそれだけか、認められない」
「……お父様」
 ダージの頑なな態度は、ある意味話に聞いていた通りだと思う、アダンさんやオオバコ家の人間以外もいる前で一体何を、と言うのが顔に出ている。いや、不愉快なのはこっちなんですけど。そう思っていたら、後ろでライボルトがバチバチ言わせ始めた。低い唸り声が聞こえる。
「君は変わらずオオバコの人間だ。話はこれで終わりだ」

 高圧的な態度の男性、今世ではなかなか出会わなかったのだが、すぐに前世の父が思い浮かんで、久々に拳が震えた。
 頭にくる。
 子どもの意見とか、人権とか、何もかもを無視して「家長」と言う制度にしがみつく亡者。何か理由があるのかもしれない、たいそうな使命があるのかもしれない。でもそれは個人を侵害していい理由にはならない。
「別にあなたに認めてもらう必要とか、ないんですよ。他人に人生口出しされるとか、ばっかばかしいので」

 これはきっと、私が前世で自分の両親に言うべきだった言葉だ。言えないまま死んでしまったけれど、本当は向き合うべきだった。だからこうして、少し違う形で、私はまた向き合わなくてはいけないのだろう。
 私の言葉にあからさまな怒気が入っていたからか、ライボルトのバチバチという体外へ流れ出る電気量が増えている。あまりにも流れ出した分はしらたまがひらいしんで受け止めているはずなので、周囲に被害はないはずだ。ただ、ライボルトはもともと雷から生まれたと考えられていたポケモンだ。立て髪で電気を集め、雷雲を発生させる。いつも、雷雲、雷の下にライボルトがいるので、普段姿を見せないことも相まって雷の根本に住処があると言われていた。
 ほうでんポケモンと言われるその名前に納得する。それほどの電量が私の怒りを感じ取って、さらに大きくなる。威嚇には十分な量だろう。

「だから今日は認めてもらいに来たって言うのは、優しい表現で。本当はただ貴方に絶縁を宣言しに来ただけなんです」
「……何を言っているのか理解しかねる、そしてすぐにそのライボルトをボールに戻したまえ」
 ダージがそう言うと、ダージの目の前に電撃が走った。床を黒く焦がしたものは、その場にいる誰もがライボルトが意図的に放ったものだとわかる。まあ、自分で雷雲を作って稲妻を発生させ、それで攻撃をするポケモンだ。今は目の前に走ったが、次はない。そんな脅しをかけているし、それ以上こちらに来るなという牽制もかねている。暴力こそパワー、会場にいる他の人たちのポケモンも、おそらくはダージのポケモンも誰もライボルトには敵わないだろう。

「だから宣言します。オオバコと私、そして父との間にはもう何も繋がりはありません」
「マチュ!」
「だからもう、関わってこないでください!」
「マーーーー!!」
 私の言葉に、しらたまが同調する。
「そもそも、私はこれから先、ミクリ以外の人を好きになることなんて、一生ありません! 勝手に人の人生決めないでください。それだけです」
「マ!!」
 しらたまも私に合わせて捨て台詞を吐いた。

 その様子に蹴落とされたのか、ダージは黙り込んだままだ。そうして、少ししてから「勝手にしろ」と言って部屋を出て行った。
「大丈夫? アザレア」
「はい、別に」
 勝ちましたね、と笑いかけると「そうだね」とミクリもおかしそうに笑っていた。遠くで見ていたアダンさんも近寄ってきて、拍手をしてくれた。
「きちんと見ていましたよ、アザレアさんの勇姿。ええ、まさかあんなことが聞けるとは……。それにしても、なかなか情熱的な告白でしたね」
 えっ、何の話だ。
「お師匠も聞いていましたか。私、とても彼女に愛されているんです。フフフ、『これから先 、ミクリ以外の人を好きになることなんて、一生ありません!』と」
「もちろん」
「ちょっと!!!!」


 ちなみにこの事は、アダンさんとミクリに一生いじられることになる。



 後日、ノニとコナ、私とミクリで集まってお茶をしていた。
「すごいよアザレアさんは、お父様を言いくるめてしまうんだから」
「あれは暴力で脅したって言うんだよ」
 ライボルトがボールに入らなかったのは、私を心配していたのだろう。とは言え、その存在は大きかった。そばにいてくれるだけで、とても心強かったし、しらたまが一緒に叫んでくれたことにも私は支えられた。
「あれから君のことは何も言わなかったし、あの証人の多さだ。もう大丈夫だと思うよ。それに……」
 そう、コナさんがノニに告白して、めでたく二人は婚約者になったのだ。コナさんは勇気がなく、ずっといるかわからない婚約者に憧れを抱くノニに恋をしていたらしい。う〜ん、オオバコ家同士の結婚だし、ダージさんも納得済み。全ては丸く収まったと言えるだろう。
 あの時、ミクリが言ったことは「コナさんは、ノニさんが好きだと言うことを伝えていないし、そのことを私たちにも隠している。アザレアが縁を切った暁には、貴方もその気持ちを彼に告げてみては?」と言うものだった。
「アザレアさん、ミクリさん。ありがとうございます。おかげで私、勇気を出せました」
「いえ、私たち何もしてないですから」
 本当に今回は後始末をして脅しただけだ。もうほとんどカチコミである。勇気を与えたとは何かよくわからない、と言うか、お嬢様があんなことで勇気をもらってはいけない。


「私が思うに、君はコンテストに出るようになった時点で、ダージには見つかっていたんだろう」
「でも放置されていた?」
「そう、もう少し利用価値が出るのを待っていたんだ。でも、状況が変わった。私と君が婚約したという事をどこかで掴んだんだろう」
「ああ〜」
 大きく実ってから収穫しようと思っていたが、他人のものになってしまうという情報が流れてきたので時期を早めることにした。それで突然ノニが吹っかけられてきたのだ。
「それで今更、という感じだったんだろうね。本当に困ったことだ」
 とは言え、それらのことをなんだかんだ上手く収めてしまったのはこちらにいるミクリに他ならない、すごい。
「というわけで、籍だけ早く入れてしまおうと思うんだよね。いつにする?」
「またその話ですか。一度話し合って、結婚式挙げてからって言いましたよね。今回のことが解決したから、もう当分は何もないと思うんですけど」
「そんなことはない、と言い切れないだろう。やはり法的に夫婦になっておいた方がいいと思うんだ。だからいつにしようか」
「話聞いてます?」
「うん、いつにしようか」
 この人こういうところあるよなあ、と思いながらしらたまを撫でてお茶を飲んだ。


Atorium

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